日本の学部からアメリカのコンピューターサイエンス博士課程に出願する

このブログでは日本(の学部)からアメリカのコンピューターサイエンス博士課程へ出願した際のスケジュールや行った対策についてまとめています。

はじめに

自己紹介

今年3月に東京大学の工学部電子情報工学科を卒業し、9月から第1志望であったシアトルにあるワシントン大学コンピュータサイエンス博士課程に進学予定です。もともと文科2類 (経済学部への進学が一般的)で入学し、経済学部に一旦進学したのちに学部での留学を経て工学部に転学部しました。

昨年12月にアメリカの大学院11校に出願し、進学予定の大学の他にカーネギーメロン大学コーネル大学・ジョンズホプキンス大学等6校から博士課程での合格をいただきました。 学部の間は自然言語処理を中心にコンピュータービジョン、機械学習などを研究し、博士課程でもこれらの研究を継続する予定です。

アメリカのCS博士課程とその合否決定プロセス

学部卒業後、2年の修士課程(博士前期課程)に進学し、その後3年程度の博士課程(博士後期課程)に進学する日本と異なり、アメリカの大学院では将来的に研究キャリアを目指す(特にアメリカの大学の)学生は学部卒業後、そのまま一貫した5年程度の博士課程に直接進学するケースも一般的です*1。また、アメリカの博士課程では授業料及び生活費は大学(学部や指導教官のグラントなど)からRA/TAなどの形で賄われるため、学生本人が負担しなくて良いことが多いです。1.5~2.5年目あたりで実施される予備審査を突破するまでの期間は授業の履修がある程度必要ですが、毎学期複数の苛烈な授業を取る必要があるアメリカの修士課程と比較すると負担はそこまで大きくないと思います (日米データサイエンティスト教育の違い)。

アメリカの(少なくともCSの)博士課程は、複数の出願資料(と面接)に基づき複数名の教授などで構成されるアドミッションコミッティーにより、以下のようなプロセスで合否が決定されます。

  1. 成績、英語テストのスコア(TOEFL及びGRE)による足切り
  2. 在籍する博士学生と比較的若い教授が足切りを突破した学生に対し、学部の大学*2/履歴書/研究実績/SoP/推薦状等に基づいてランクをつけ*3、ランクの高い学生を選抜候補者名簿(shortlist)に載せる(ここまでが第一段階でのフィルタリングとされ、数百程度まで候補者を絞り込みます)。
  3. (このプロセスは大学によっては存在しないことも)shortlistは更に別の教授手渡されて更にshortlistの中から候補者を絞り込む。
  4. 残った候補者のリストがそれぞれの教授に送られる。またもし応募フォームもしくはSoPに一緒に働きたい教授に言及する場合、その教授陣にその旨とともに送られる*4
  5. (このプロセスは大学によっては存在しないことも)一部の出願者*5に対して電話面接もしくは現地面接を行う。
  6. 出願者の詳細を確認した教授がその学生を獲得したいと思った場合、アドミッションコミッティーに推薦*6
  7. アドミッションコミッティーにより合否決定。

スケジュール

以下が私のアメリカ大学院出願時の実際のスケジュールになります。

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出願関連のスケジュール

TOEFLおよびGREについては足切り程度に使われることが多いということで、最低限のスコアが取れた段階で対策を終了しました。 この件については後述するのですが、やはり中国、インドなどからの出願者はかなり高得点を獲得していることも多く、私は出願直前にそこまでスコアが高くないことで少し不安を感じていたので、 可能であれは出願する1年半程度前から勉強して、出願一年前には高いスコア(TOEFL 110, GRE Q+V: 325, AW: 4.0)が取れていると安心ではないかと思います。
これらのテストスコアは基本的には大学の窓口にETSのサイトから送る必要があり、一応出願締め切りの1ヶ月前にはこの手続きをサイトで完了しておくと締め切り直前に間に合うんだろうかとヒヤヒヤしなくて済みます。

SOPなどの出願書類は秋頃に作成を開始しました。12月に入る前には全ての必要書類が揃っていると望ましいと思います。

またカリフォルニア大学(UCバークレーなど)は研究計画や過去の研究が中心のSOP以外に自分史(Personal Statement)が必須だったり、CMU CSのLTIプログラムではビデオエッセイの提出が強く推奨されています*7。大学ごとにこういった追加的な出願資料が必要な場合があるので、11月には必要書類を一度確認して早めに作成を開始した方がいいと思います。

私は本格的に研究を始めたのが学部3年生の12月と遅く、また学部4年生の秋学期は北京で研究インターンを行っていたために、複数の研究と並行して出願を進める必要があったため、 出願書類の作成等はかなりバタバタしていました。 まだ出願までに1年以上猶予のある方は早い段階で研究実績を残して出願年は研究をある程度セーブした方が戦略的には良いかもしれません…

必要な書類やその対策

出願時に主に必要になるのは (1) TOEFL及びGREのスコア提出 (2) 3通の推薦状 (3) Statement of Purpose (4) 成績証明書 (5) 英文履歴書で、大学によっては上述のように追加的な資料の提出を推奨もしくは必須としています。以下これらの出願書類に関する項目を追って行きます。

どのファクターが特に重要なのか、というのは公言されてはいませんが、学部から直接PhDプログラムに出願する場合は「推薦状 >= 研究実績(≈ 英文履歴書・Publication Record) > SoP >= GPA > TOEFL及びGREくらいなのではないでしょうか。やはり出願時までにアドバイザと十分なコミュニケーションを取りながら、なんらかの形で国際会議やワークショップ・ジャーナルなどで発表できると、より効果的な推薦状を書いてもらえ、また研究実績という点でも目立つことができると思います。また学部からの出願の場合はGPAについてより注目されます。

TOEFL及びGRE

対策

実際の試験対策については詳しい記事が多数あるので割愛させていただきます。私はどちらもT公式ガイドブックを一通り解き、TOEFLは所属大学で受講ができた、アゴスによるTOEFL対策講座を受講しました。またGREについては一応MagooshManhattanのFlash Card (単語帳)を使って学習しました。ただGREに関しては足切りはされない最低限のスコア(V+Qで310後半、AW で3.5)*8を取ることだけを目指し、あまり時間をかけていません…。

TOEFLのミニマムスコア

TOEFLのミニマムスコアについては各大学によってある程度ばらつきがあるのですが、情報系だと「100以上」もしくは「各セクション22(20)以上」等の基準が設けられていることが比較的多いと思います。

これらのミニマムスコアについてはおそらくかなり厳格に適用される(推薦者の一人が出願先の大学の教授もしくは元教授等、余程強いバックアップがないと書類審査の段階で不合格とされる可能性が高い)らしいので、 TOEFLについては有効期限2年が切れない範囲で早めにこの基準を超えておくとよいと思います。

TOEFLのSpeakingのみ高いスコアを要求されている

大学によっては「Speakingで26(27)」等、Speakingのみかなり高いスコアを設定していることがあります。
例えばワシントン大学(UW)CSE PhDコースでは以下のような規定があります。

The minimum TOEFL-iBT score is 80, including at least 26 on the Speaking section of the test. An applicant who does not meet the minimum required score of 80 on the TOEFL-iBT will not be considered admissible by the Graduate School.

Ph.D. Admissions: Frequently Asked Questions | Computer Science & Engineering

これは主に外国人をTAとして雇用するためにこの基準を超えていることが要求されているためであり、国内奨学金から十分な支援がある、受け入れ先の教員のファンディングが潤沢であるためTA業務は卒業するために最低限で良い等の場合には超えていなくても合格をもらえることがあります。

ただ、TAは博士の修了要件として課されていることがほとんどなので、こういった制限のある大学に進学する場合、進学後に英語の授業やTOEFLの再受験や面接審査等*9が必要になってきます。

GREのミニマムスコア

GREについてはTOEFLほど厳密にミニマムが設定されているわけではないものの*10、内部での審査段階である程度目安となる点はあるようで、ある大学でアドミッションにかかわっている博士学生からは

Reasonbaleなスコア(Verbalが150、Quantativeが160以上)であれば特に気にならないが、さすがにそれ以下(特にQが160を切る)だと事実上の足切りに遭う可能性がある。ライティングについても3.5もしくはそれ以下だと気になる。できれば4.0以上が望ましい。

と聞いたことがあり、最低限この水準はクリアしたほうが安全かもしれません。

また自然言語処理で著名なJHUの先生はあまりにも低い(おそらく上述の基準以下)のスコアはネガティブなファクターとなることを示唆しています。

Answers for Prospective Graduate Students

Surprisingly low GRE scores on an otherwise strong application may just be a fluke, so they do not disqualify you, but they will make us check your application for other signs of weakness.

ただ、GREについてはTOEFLほど厳密にミニマムスコアが定義されているわけではないので、他の出願書類(例えば研究実績)が優れているの場合には多少スコアが悪くてもカバーできる可能性があります。

望ましいスコアについて

TOEFLGREについては正式にもしくは非公式に内部で設定されている可能性があるミニマムスコアについては以上の通りなのですが、以前ある大学の先生とお話しした際に

100はミニマムであって、103や104は少し低いなと感じる。110以上あると安心する。

という話を伺ったことがあり、余裕がある場合はより高い点数を取っていたほうが不安要素を減らせそう*11です。

ミニマムを超えているがSpeakingのスコアが低い(~22)の場合はアドミッション時に悪影響を与える可能性があるので*12、推薦状で「英語でのコミュニケーション能力が十分である」というように言及してもらうといいかもしれません*13

GREについては、各大学で「出願者の平均スコア」「合格者の平均スコア」等を公開していることがあり、これを下回っている場合、他にカバーできる材料がなければ足切りもしくはやはり出願書類が審査される際にネガティブな印象を与えてしまう可能性があります。

スタンフォードカーネギーメロンなどのトップ校でも「GREでQ+Vが320を超えていないから書類審査で落とされて教授の目に入らない」ことはないのですが、研究実績や推薦状がかなり強力(出願先の先生と個人的なコネクションがあり、かつ自分を高く評価している)であると自信が持てる場合を除き、できるだけこの望ましいスコアに到達していたほうがよいと思います。また日本からの出願者は中国等からの出願者と比べてGREで高得点を獲得しているケースが少ないらしく*14、ここで高得点を取れると一つのアピールになるかもしれません。

私は出願直前にTOEFLGREのスコアがあまり高くないことに気を揉んでいたので、余裕がある方は早めに対策をし、よい得点を取得しておくとよいと思います。また研究実績の少ない学部生等の場合、もしくは出身校があまり知名度が高くない場合、GREのスコアを見て判断することがあると明言している先生もおりやはり320後半程度のスコアがあった方が安心はできるかもしれません。

We don't like to rely too much on the GRE, because it is just an artificial one-day exam. Very high GRE scores are most useful if your recommendations and grades come from a lower-ranked institution: your high GRE will reassure us that you will shine as brightly here as you did there.

For undergraduate applicants without research experience, GPA and grades from standardized tests are often important.

ただ出願の時期が迫っている場合は、GREについてはいくらでも研究実績でカバーできると思うので、研究経験を積む、より良い推薦状を書いてもらえるよう努力する、コンタクトをとる、などにフォーカスしたほうが良いと思います。

GPA

望ましいGPA

特に学部から直接出願する場合、3.5~4.0/4.0の間のGPAを維持したほうが良さそうです*15。 また修士からの出願者の場合でも、「学部時代のGPA」はある程度考慮されるようなので、学部時代から安定したGPAを取るのがベストかもしれません。GPAについては学部全体での数値が高くなくても専門科目(例えば東大なら後期課程)でのGPAを重視する大学*16もあり、今学部2、3年生の方は頑張って良い成績を取るといいと思います…

GPAが3.0~3.3で事実上のGPAによる足切りを行なっている大学もあり、このミニマムを下回っている場合は注意が必要かもしれません*17。 4.0/4.0は出願時に有利のようですが、これについても諸説あり、研究実績がないのにGPAだけ良いと逆に「勉強ばかりしていたのではないか」とネガティブな印象を与えてしまうこともあるらしいです*18

ある大学の先生は

ある程度名の知れた大学であれば3.5以上あれば特に問題はないし、それ以上は大差はない(3.7も3.9もほぼ関係ない)。大学名で傾斜をつけるため、名門校出身者のGPA3.3程度の方が自分の知らない大学のGPA3.8程度より評価することもある。

とおっしゃっていました。 GPAに関してはCMUの方が書いた資料のSection3.1でもう少し詳しく言及されています。

GPAに関する懸念事項

GPAが4.0換算でない場合もしくはGPAなどを大学が成績証明書に掲載していない場合

出願にあたっては「成績証明書に記載されているGPAを入力するように。再計算した結果を勝手に記入しないこと」などと求められるケースが多いと思いますが、大学によってはGPAがそもそも4.0換算でないもしくは成績表に掲載されていないケースもあるかと思います。東大ではオンラインのサイトではGPAが確認できるにも関わらず公式の成績証明書には掲載されていません。また、D(不可)が成績評価に存在するにも関わらず、成績証明書に「成績証明書は優上、優、良、可の4段階」と表記されているため、「もし優上を4.0、優を3.0、良を2.0、可を1.0で向こうで再計算されたらどうしよう」と無駄に不安になっていました。

大学によってはWESなどの公式機関でGPA換算を算出するよう勧めているところもありますが、料金や時間的な問題から私はこれについては見送りました。出願時は成績表と同じファイルに(もしくはsupplementary material)にTranscript Legend(それぞれの評価が何点以上を表すのかを示すもの。ある大学が公開しているTranscript Legend例の資料がわかりやすいかもしれません。)を作成、添付した上で、それに基づいて計算したGPAを記入していました。GPAを重視していると公式サイトに表記した大学からも最終的に合格をいただけたので、少しは功を奏したのかもしれません。

GPAが低い場合に挽回可能か

GPAが4.0スケールだと3.0くらいで複数のトップ校に合格した友人がおり、理由を聞いたところ、「強い研究実績(トップ会議での主著論文が複数本)あったこと」「SoPでなぜGPAが低いのかについて合理的な説明をできたこと(学費を自分で捻出するためにパートタイムで働いており、出席点が付く授業での成績が悪かった等)」を挙げていました。もし学部時代のGPAがあまり高くない場合は研究実績など他の出願書類で光るものを見せてSoPで上手く説明ができればトップ校であっても合格のチャンスはあると思います。

科目名がわかりにくい

ACMの基準に沿った科目名で授業を登録しているアメリカや中国などの大学と異なり、日本の大学では科目名(特に英語での表記)が本来の内容と離れてしまっていることがよくあります*19。また数学系の教科が軒並み「数3」「数学演習」「数B」などあまり情報量のない科目名なのも頭が痛かったです...

私は一応科目名とその内容、担当教官、及び使用した教科書の一覧を作成したのですが、肝心の出願時に添付を忘れてしまいました。おそらく添付しなくても大丈夫だと思うのですが、不安に感じた場合は早めに作り始めておくといいと思います。

Curriculum Vitae (CV)

英語圏では(長い)履歴書のことを慣例的にCurriculum Vitae (CV)と呼びます。CVについては少し日本の履歴書と書き方が異なるので戸惑うかもしれませんが、ウェブサイトで英文履歴書を公開している博士学生*20も多いので、自分が行きたい研究室の学生(特に博士課程の1年生等だと出願時と大体同じ内容が確認できるのではないでしょうか)の履歴書をいくつか見てみてどんな構成がいいのか調べてみてもいいのかもしれません。 これについてもSoPと同様、アメリカの大学院に知り合いがいれば体裁や構成等確認してもらうといいと思います。

CVは誤字脱字などがないか、出願フォームでの記入内容と齟齬がないか、見やすいかは大切ですが、基本的にCV自体に時間をかけるよりは、やはりCVに書く内容(研究実績など)を充実させることがより重要です。

推薦状

推薦状は出願において一番重要なファクターとも言われており、可能な限り「強い」推薦状を書いてもらえるように戦略的に頑張りましょう。

誰にお願いすればいいのか

誰に推薦してもらうかについては、以下のような点を考慮して検討すると良いのではないかと思います。

  • 研究プロジェクトに一緒に取り組んだことがあるか
  • 出願予定の大学のファカルティと直接の知り合いである、もしくは知られているか
  • それぞれ異なるプロジェクトで関わっているか、もしくは異なる側面から被推薦者のことを推薦できるか
  • 普段英語でコミュニケーションを取っている、もしくはこれまでの国際学会での発表を見ており、英語プレゼンなどの英語能力について評価ができるか

学部からの出願の場合、「卒論の指導教官」「授業のプロジェクト等でかかわった先生」「良い成績(A+)等をとれた授業の先生」に頼む等が多いと思いますが、できるだけ一緒に研究をしたことがある(かつ高く評価してくれそうな)方に推薦状を書いてもらうとより強力だと思います。 学部の早い段階から研究室や民間研究所で研究インターンなどさせてもらえないか頼む、研究室が複数人の先生で運営されている研究室で卒論研究をするなど考えてもよいのかもしれません。

また推薦状はその学生の能力証明という側面も強いので、例えば出願先のファカルティにも知られている方からの推薦状であればより信頼度が高くなると思います。

更に複数の推薦者が全く同じプロジェクトについて同じような側面から言及するよりは、全く違うプロジェクトで関わった所属の異なる複数の先生にお願いする方がより効果的だと思います。もし仮に複数の推薦者にある1つのプロジェクト(卒業研究など)について言及してもらう場合、よりシニアの推薦者には研究全体のことを、よりジュニアの推薦者にはテクニカルな側面(実装能力など)に言及してもらうなど、異なる側面に焦点を当ててもらうよう頼むのが良いのではないでしょうか。

また可能であれば日本人以外の推薦者が一人はいると、英語でのコミュニケーション能力などについても言及してもらうことができます。また推薦者が全員日本人の場合でも、国際学会での発表態度や研究室の留学生とのディスカッションの様子などに言及し、研究に必要な英語能力があると保証してもらえるといいのではないかと思います(特にTOEFLのスコアが振るわない場合)。

機械学習分野での博士課程進学に関するブログで具体的にどういった推薦状が「強い・良い・弱い・悪い」のか書いてくれている記事があり、こちらも参考にするとよいと思います。

timdettmers.com

推薦状の執筆に際して推薦者に送った資料

私の場合は特に下書きの作成などを推薦者からお願いされることはなかったのですが、執筆を依頼する際には以下の書類をまとめて送っていました。

  • CV
  • SOP
  • (推薦者と取り組んだ)研究プロジェクトの論文及び詳細の英文でのまとめ

最後の「詳細のまとめ」に関してですが、彼らと共に行ったそれぞれのプロジェクトについて「どういう研究を、どういうモチベーションで取り組み、その中で自分はどんな貢献をし、どういった結果となったか」を具体的にまとめました。 またその他に書いてほしいこと(学業成績や分野に関連したボランティア活動、研究室運営に関する貢献など)がある場合についても詳細をまとめて送りました。 これについては正直どの程度役に立ったのかはわからないのですが、私自身SoPを書く際などに振り返りやすくよかったです。またSoPと推薦状の記述内容に齟齬があると心象が悪いので、そのすり合わせも兼ねてこれらの資料はきちんと推薦者に送りましょう。 実際に作成した資料などが気になる方はメールかツイッターなどで問い合わせてください。

また特に学部生の出願の場合、推薦状でどういった内容が書いてあることが望ましいのかと出願先の先生に聞いた際には、

機械学習分野では学部生でのトップ会議発表例も増えているものの、実際には博士課程の学生等が研究の大部分を行っているなどの例も散見するため、研究のどの程度の割合をその学生が行ったのか、についてはっきりと推薦者が明記していると良い。

という回答をいただいたこともあり、推薦状で具体的なエピソードなども交えて自分が研究のどの部分に貢献したのか、はっきりと言及してもらうといいと思います。

大学や先生によってはホームページで求める学生を明記していたりすることもあるので*21、少しそれに合わせて書いてもらうようにしてもいいのかもしれません。

推薦状の依頼・提出

推薦状の依頼に関してはできるだけ早く(遅くとも出願する年の夏)には行いましょう。

推薦状に関してはほとんどの大学で出願フォームで推薦者を登録すると自動的に推薦状をPDF形式で提出するためのリンクもしくはフォームが送信されるような形式になっています。推薦状を書いていただける方に迷惑をかけないよう、出願校が決まり最低限推薦者の登録を行い、早めに提出のためのリンクをお送りしましょう

Statement of Purpose (SoP)

「SoPは合否に対して影響がない」?

SoPは実際には大して重要ではないと噂もありますが、個人的にいくつかの大学のファカルティやPhDの方と話をした際の印象だと、やはりSoPもある程度重要なファクターであるような気がします。
一般に出願にもっとも重要だと言われるのは(発表論文などの研究実績を除くと)推薦状と言われていますが、先生によってはSoPも推薦状と同様もしくはそれ以上に重視すると公言されていた方もいました。

SoPを読めばその人間がどの程度この研究分野を理解しているか、論理的な文章が構成できるか、研究に対して強いモチベーションやビジョンがあるかどうかが読み取れる。また文法ミスやあまりにも構成が練られていないSoPは印象が悪く、他の出願書類が優れていても受け入れたいとあまり思わない。

また上述の通り、出願時に「弱み」となるような要素がある(GPAが悪い、学部・修士の間に空白期間がある等)はSoPで合理的な利用を述べることができれば減点を小さくできる可能性も高いです。

どんな内容を含めるべきなのか

SoPについては「全ての大学で使いまわせる内容」「それぞれの大学によってカスタマイズすべき内容」をそれぞれ作成し、前者については早めに作成して友人や先生に内容を早めに確認してもらい、構成を練ると良いと思います。

全ての大学で(大体)使いまわせる内容
  • 長期的な研究目標は何か。
  • なぜこの研究分野に興味を持ったのか。
  • 博士課程では特にどんなテーマに取り組みたいか。
  • これまでどのような研究に取り組んできたのか。
  • (もしあれば)リーダーシップ活動やハッカソン競技プログラミングなどの業績
  • (もしあれば)エンジニアリングインターンシップや開発経験のアピール
  • (もしあれば)国内奨学金などの支援を受けられること
  • 博士課程に進学したい理由は何か。
  • 博士課程終了後のキャリアプラン(アカデミアに残るのか、企業の研究所などに就職したいのか)
それぞれの大学ごとに修正したほうがいい内容
  • なぜ「この大学で」博士課程に進学したいのか。
  • 特にどの先生のどんな研究に興味を感じているのか。

これまでの研究経験について説明する部分では「個別の研究においてきちんとモチベーションを明確にする(なぜその研究に取り組みたいと思ったか)」と「それぞれの研究間でのつながりを明確にする」と良いと思います。私は出願時までに行っていた研究の分野がかなり散らばっていたこともあり、CVや論文リストだけ見ると研究興味がはっきりしていないという印象を受けるだろうなと思っていたので上手くストーリーをつなげることを意識しました。またそれぞれの研究プロジェクトにおける自分の貢献を明確にすることも重要です。

またこれは私もわかっていなかったのですが、例えば情報系の分野に関連した課外活動(私の場合は情報科学におけるダイバーシティ推進のための大学生向けのイベント主催したり、女子中高生向けのイベントに登壇したりしました)や開発経験(昔はエンジニア就職希望だったので、積極的に開発系のインターンをしたり、ハッカソンに出場していました)なども、一見研究のステートメントは関係なさそうですが、意外と他の候補者と比べてユニークだと評価してもらえることがあります*22

どんな内容を含めるべきではないのか

逆に含めるべきではない内容についても言及されている先生もいらっしゃいます。

www.cs.cmu.edu

またコンピュータサイエンスではないですが、実際に「悪い」SoPの例もネットで公開されています。

https://www.niu.edu/engagedlearning/_pdfs/grad-school/PREP-Statement-of-Purpose-Bad-Example.pdf

これらに共通する内容として、「子供の頃からこの分野に興味があり...」「初めてコンピュータを触ったのは...」などの記述です。これらの内容はそれが現在の研究興味やPhD進学を希望する理由に直接関わっていない限り、避けた方が無難です。基本的には「研究経験や興味、研究に関連する技能や知識、もしくはアウトリーチ活動などを通して大学というコミュニティに貢献できること」であるかどうかを基準に含めるべき内容を書くといいと思います。

以下のサイトではより形式的にどういった誤りを避けるべきかについて紹介されています。

www.greedge.com

参考にした資料

ネットで過去に出願した方のSoP*23や「SoPの書き方」のような書籍もあるのですが、私が執筆に関して一番参考にしたのは志望度の高い2校の博士課程に在籍している(いた)方々からいただいた、彼らの出願時のSoPでした。 日本にいて実際に北米の大学院にいる方とコンタクトをとるのはハードルが高いですが、知り合いのつてをたどったり、もしくはメールをお送りしてSoPや出願に関して相談させていただきました。 私のSoPについても連絡いただければお送りします(ただ過去の出願者とあまりに酷似しているとそれだけで剽窃を疑われて落とされかねないので、参考程度にするのがよいと思います)。

執筆手順(スケジュール)

私は以下のような手順でSoPを執筆しました。

  1. ネットなどで大まかにどういう内容を書くべきなのか等の資料を収集する(9月上旬)。
  2. 出願予定の大学院に在籍している博士学生から出願時のSoPをもらう(9月下旬)。
  3. 執筆を開始する(10月上旬)。
  4. 先生や北米大学院の博士課程に在籍している(いた)友人に第一稿を確認してもらう(11月上旬)。
  5. もらったコメントをもとに修正し、これを繰り返す(11月中旬〜12月上旬)。
  6. 大学ごとの段落を作成する(11月下旬)。
  7. 英文校正に出す(12月上旬)。校正後のSoPを再度友人に内容を添削してもらう。
  8. 体裁を整えて提出(12月上旬〜中旬)。

繰り返しになってしまいますが、SoPに関しては誤字・脱字は絶対に排除しましょう。 また文法チェックなどはGrammarly有料版だけでは心許ないので、できればネイティブの友人の添削や英文校正に出しましょう。

私は英文校正に関しては Graduate School Application Editing - Fast and Affordable | Scribendiを利用しました。proof readingは構成などはそのままで、文法チェックや言い回しの修正を中心に行うもので、editingは構成なども含め大幅なサジェスチョンを行ってくれます。また要望欄に「~words以下にしてほしいから短くできそうなところは短くしてほしい」と書くと冗長な言い回しの削除やより簡潔な言い回しにしてくれます。 英文校正サービスで添削してくれる方は自分の専門分野が専門でないことが多いので、理想的には「英文校正サービスの添削+同じ分野を専門にするネィテイブの友人の添削」の両方を行うのがいいのではないかと思います。

友人らに英文添削をお願いする場合は、(かなり細かい話ですが)アメリカ英語かイギリス英語に統一する、カナダ英語などが突然登場しないように気をつけた方が無難だと思います*24

面接

情報系では一般的に他の分野ほど選考過程で面接が行われない*25という話もあるのですが、私の場合は北米は出願した11校のうち、9校から面接オファーがありました。

最初の面接のオファーが来てから2日後に面接が予定されていたので、慌てて想定問答集みたいなものを用意し、友人に擬似面接をしてもらいました。
面接といっても大学によって位置づけが大きく違うようで、先生と具体的にお互いのリサーチの興味がマッチしているかかなり突っ込んだ話をする面接(このタイプの面接は合否に特に大きな影響を与えるので、慎重に準備をした方が良いと思います。)と、フランクに志望する先生のグループの博士学生と話す面接がありました。ちなみに詳細は割愛しますが、かなりテクニカルな質問(このモデルにおけるメモリや計算量的な意味でのボトルネックは何か等)をされたりすることもあります。

面接でよく聞かれるトピック

これまでの研究経験について

まず最初に「あなたの過去の研究の中で一番気に入っているものを説明してください」「一番最近の研究を説明してください」等を聞かれることが多いと思います。
自分の過去の研究、特に直近の研究やSoPで大きくページを割いて言及している研究についてはきちんと自分の中で以下のような点を整理していくといいと思います。

  1. その研究のモチベーションは何か。ゴールはどこにあるのか。
  2. どのような解決策を提案し、それはこれまでの手法と比べてどのような独自性があるのか。
  3. 結果はどうだったか(従来手法と比べて大幅な性能改善など)。また面白い発見はあったか。
  4. その研究の中で自分はどのような役割を果たしたか(実装のこの部分をおこなった、論文を主著者として書いたなど)。
  5. この研究をするうえで何が困難であったか、どうその困難を克服したか。
博士課程でやりたいテーマについて

余程の理由がなければSoPと大体同じ内容を言い換えたり少しアイディアを補足して説明するといいと思います。

なぜこの大学なのか

余程の理由がなければSoPと大体同じ内容を言い換えたり少しアイディアを補足して説明するといいと思います。また面接相手がSoPで名前を挙げた先生であるならば、「あなたの研究内容に興味があったから」等を直接伝えてもよいと思います。

博士課程を卒業した後何をしたいか

おそらくこれもSoPとほぼ同じ内容を応えるといいと思います。理論立った説明をできる場合を除き、SoPと食い違う内容を回答するのは得策ではないかもしれません。

最近読んで面白かった、もしくはこれまで読んだ中で一番面白かった論文は何か

これは候補者が実際に先生の研究の興味とマッチしているかを確認するために聞かれるケースが多いような気がします。あまりにもその先生の興味がなさそうな分野・論文をピックアップしてしまうと、研究興味が合わないのでは…?という印象を与えてしまう印象があります。一方でその先生がじっくり読んでいそうな分野のものを選んで見当違いな説明をしてしまってもよくないのでバランスが重要そうです…

私は自分が読んで面白かった論文のうち、特に面接をしてくれる先生が興味を持ちそうなものを一つ選び、

  1. 簡単な要約
  2. なぜ面白いと感じたか、自分の研究興味をどう関連するのか

についてのメモを作成していました。

何か質問はあるか

企業の面接などでも最後によく聞かえれることですが、できる限り「特にないです」等と答えるのはやめましょう…

相手がSoPで名前を挙げた先生ならば彼彼女の現在の方向性や今一番熱意をもって取り組んでいる研究課題などを聞くと、もし仮に自分がその大学に入学した場合にどういった研究に取り組むことになるのかなどもわかっていいと思います。また学生にどんな素養を求めているか、というような話も聞いたりしました。

ちょっと特殊な質問例

上述の質問はどの大学でも割と聞かれるのですが、それ以外にも先生によって少しずつ違うことを聞いたりします。

  • データセットを新たに作るような研究と手法を既存のデータセット上で改善していくような研究のどちらがやりたいか
  • 研究のどんな部分が一番好きか
  • どのようなスタイルで研究するのが好きか
  • 大きな研究グループで研究するのが好きか、少人数の研究グループで研究を行うのが好きか
  • 研究に関することであなたの強みと弱みは何か
  • どんな指導方法を期待するか
  • 研究をしていて最も面白いと感じる瞬間はいつか
  • 研究をしていて一番大変だと感じる瞬間はいつか
  • これまでの研究の中で、もっとも分野に対してインパクトの大きい貢献をできたと思う部分は何か

合格可能性を上げるためにした方が良いこと

事前コンタクト

事前コンタクトをとる利点

アメリカの大学院、特にCS系の場合、合否の決定がアドミッションコミッティーによって決定されるから事前のコンタクトは特に意味がない、もしくは教授が大量にメールを送られてくる*26から反応すらしないことが多い、という話も聞きます。

ただ実際には(その教授がアドミッションコミッティにいるいないに関わらず)学部に所属する教授がコミッティへ特定の出願者を「推薦」することは一般的に行われ、合否決定である程度考慮されるようです。そのため、志望大学の教授に「一緒に研究したい、研究グループで獲得したい」と思ってもらえると合格可能性はかなり高くなると思います。

事前コンタクトをとる利点として

  • そもそも返信をくれるかどうかである程度自分に対して関心があるか判断ができる*27
  • 学生を今年とらない予定だ、などの情報を事前に知ることができる。
  • 上手く研究興味がマッチしていると思ってもらった場合に、出願後に後日声をかけてもらえたりする。
  • 出願先の学生と知り合うことができ、出願時にその学生に面倒を見てもらえたりする。
  • 出願数が急増する中で出願書類を見落とされてしまうリスクを減らすことができる。

個人的にはTOEFLなどの足切り点は既に超えており*28、かつ国際会議での発表などある程度の研究実績等がある場合は事前にコンタクトできないか挑戦してみる価値は十分にあると思います。

もし可能であればメールを送るだけでなく、直接訪問する、スカイプでミーティングするなど、30分から1時間程度直接話す時間を作ってもらえないか挑戦してみるといいかもしれません(特に学部生などで目立った研究実績がない場合)。

どのようなメールを送るべきか

最初に送るメールはできるだけ簡潔に、かつ自分のこれまでの研究業績や研究興味、そして特に「なぜあなたのところで研究したいのか」がしっかり伝わるといいと思います。

私は毎回その先生の過去2年の論文のうち、特に自分の博士課程の研究興味に近く面白いと思えた論文に言及し、「こういった点であなたの論文が面白いと強く感じ、あなたの指導のもとで博士課程の研究を進めたいと思っている」と書いていました。 またメールに長々と業績を列挙するのではなく、「CVつけたので見てね!」とCVをメールに添付するといいと思います。

バージニア大学のCSの先生が書いたコンタクトの仕方についてのブログ記事を参考にメールを作成し、博士課程に在籍している友人に添削をしてもらいました。 www.cs.virginia.edu

ただ、このQuoraの回答にもあるように、宛名だけ変えたようなテンプレートな文面を送るとかえって逆効果になりかねません。

I get a lot of letters of this type. Let me tell you what NOT to do. The first contact should not be a spam letter -- that is, a letter that you could easily have sent to 1000 faculty members worldwide, and probably did. Why should I spend more time answering your letter or reading your resume/CV than you spent writing the letter?

どのタイミングで連絡すべきか

出願時期が近付くほど、出願予定者からの連絡が増えると思うので、おそらく8月ないし9月くらいまでには一度連絡できるといいのではないでしょうか(私はこの時期に連絡した方からは9割くらいの確率で返信をいただけました)。 それより早くてもいいかもしれませんが、博士での研究テーマが曖昧なままディスカッションすると逆に悪い印象を与えるリスクもあるので、自分の中である程度SoPで書くであろう内容についてアイディアがまとまってから連絡しました。

また出願後にも「出願した報告+前回話したときからのアップデート(奨学金の採択報告、論文投稿ないし採択報告)」をすると、より効果的ではないかと思います。

国内奨学金

CSの場合、一部の専攻(軍事的な側面から一部のFellowshipに外国人は応募できないなどの制約がある分野)に比べると若干アドミッションへの影響は少ないのかもしれませんが、やはり国内奨学金を獲得していることはかなり重要です。

ある先生は

国内などで支給される奨学金を持っていることは大変いいと思う。やっぱり奨学金をある程度持ってきてもらえると教員側としては負担が減るので安心する。またこの国出身の学生の中で特に優秀な学生なのだという保証にもなる。

と仰っていました。 「最近は人工知能ブームで関連分野の研究室は資金が潤沢だから奨学金を自分で持ってくる必要はない」「大学からFellowship・TAもしくはRAが出るから必要ない」という噂もあるのですが、

現在かなり資金が潤沢なので、奨学金の有無で自分のなかで学生の順位づけが変わることはない。例えば二人の学生AとBがいて、業績などからAの方が優秀だと思えばBが最初2年間すべてをカバーする奨学金を持っていてもAを取る。ただAとBが同程度だと思った場合は、奨学金があるBを取る。

というのをある大学の先生(周辺企業からの研究資金を大量に獲得している)から伺ったことがあるので、やはり合格の可能性を少しでも上げたい場合は奨学金を獲得すべきだと思います。

また奨学金を持っているとTAおよびRA業務で自分の研究時間が削られるということも少し減ると思うので、そういった意味でも奨学金を獲得するメリットは大きいと思います。

私が出願した国内奨学金

私は以下の奨学金に応募しました。 運もあるのでできる限り多くの奨学金に申し込むのがいいと思います。

国内奨学金出願に関する注意点

国内奨学金東京などで開催される面接に直接参加すること(Skype参加はNG)、申請書類は郵送(必着と当日消印有効を勘違いしないように気を付けましょう)、手書き必須(平和中島、伊藤国際等)、TOEFL正式なスコアレポートの写しが必要(オンラインで確認できるレポートはNG)などがあるので、それぞれの奨学金の応募要項をよくチェックしましょう。スコアレポートが手元にない場合、ETSのサイトから申請する必要があり、2週間程度発送にかかるので遅くとも7月には手元に正式なスコアレポートがあるか確認しましょう。

また日本の財団系奨学金ではあまりないものの、「卒業後日本に帰国する、もしくは日本企業などに就職する」などを受給条件としている奨学金も一部存在します。 博士号取得後絶対に日本に帰国したいという意思がない限り、こういった点についても申請時に慎重に検討しましょう。 先生によってはこの「帰国義務」を心配する方もいるので、仮に帰国義務のない奨学金に採択いただき、面接で奨学金の話を言及された場合ははっきりとこの点を強調するとさらに好意的に見てもらえると思います*29

また大学院出願前(遅くとも11月末まで)に採択通知が受け取れそうかどうかも確認しましょう。大学院出願時は正式な証明書(PDF版)を提出する必要があるので、採択されたあとはなるべく早く正式な証明書の発行(及び可能であればPDF版の送付)を財団に依頼しましょう。

これまで質問されたこと

学部から直接PhDに出願するべきか

日本からアメリカの博士課程に出願する場合、「日本で修士課程に進学してからの出願」もしくは「学部から博士課程にそのまま出願する」の大きく分けて2つのパターンがあります。学部からの出願の場合、「準備期間が短い」「修士を卒業後(研究員などを経て)博士進学した博士学生と比較し経験や知識で差がある」というデメリットはあるものの、「(ある程度の研究実績があれば)ポテンシャルをより評価してもらえる」「日本で修士課程を過ごす時間・費用を節約できる」などのメリットも大きいと思います。

また、昨今「人工知能」と纏められる分野ではかなり博士課程の競争が過熱化しており、トップ会議論文が複数本なくては合格は難しいと言われています。しかし実際にはこういったパブリケーションに対する基準・評価は候補者のバックグラウンドに応じて異なり、学部からの出願者だと出願時に一本でもこれらのトップ会議で主著論文があるもしくは2nd Tier・ワークショップ論文があればある程度評価してもらえるようでした。一方で確かに修士以降からの出願だとトップ会議 (機械学習NLP、CV分野ではACL, CVPR, NeurIPS, ICLR, AAAIなど) ですでに主著論文が複数ある候補者が多く、パブリケーションでの差別化が困難になっていそうです。学部3年生の終わりまでに2nd Tier会議やワークショップ論文などでも実績が作れた場合には、敢えて学部から直接出願する、という選択肢もあると思います。

余談ですが、現在著名な大学のCS博士課程には毎年1500~2000程度の出願があり*30、 特に人工知能領域(機械学習自然言語処理、コンピュータービジョン)はかなり厳しい状況*31です…

非情報系からの情報系の博士課程への出願

仮に現在の専攻が情報系でない(物理・数学・統計・言語学・電気工学・機械工学等)でも出願は可能な場合が多く、特に学部時代に情報系の科目を履修し良い成績を納めていたり、研究内容がこれらの分野と関連していたり、研究実績に優れていた場合は十分に合格が可能*32です。ただやはり出願への時間的な猶予なども考えると、一旦国内もしくはアメリカの情報系の修士へ出願し、修士課程の授業を履修しつつ研究経験を積んでから博士課程に出願する方が可能性としては高いのかもしれません。

またどうしても学部から博士課程に直接出願したい場合、学部在学中に転学部などで情報系の専攻に変わることも選択肢としてあると思います。 私はもともと東京大学へは文科(文科2類)で入学し、一度進学振り分けで経済学部に進学したのち、留学を経て工学部電子情報工学科に転学部をしました。そのため前期教養で数学や物理系の授業の履修が少ないことやそれにより基礎的な数学・物理の素養がないと判断されるのではないかと出願時期に心配していました。 実際に出願した先生に合格をいただいた後聞いたところ、私の場合は推薦者がこういったバックグラウンドに言及した上でとても好意的に評価をしてくれていたこと、専門課程(特にCS系)での成績が良かったこと、開発インターンハッカソンでの受賞歴などがあり、プログラミング能力が評価されていたなどの点から、ポジティブに解釈されたとおっしゃっていました。

異なるバックグラウンドからの出願は不利に働く可能性もありますが、好意的に評価されることもあるため、気後れせず出願について検討するといいのではないかと思います。

(学部からの出願の場合)現在の所属大学の院試は受けるべきか

学部から直接アメリカの博士課程に進学する場合、所属大学の修士課程への出願を同時にすることは、合格すればアメリカの大学院全てに落ちても所属大学の修士課程に進学できるという安心感があるなどのメリットがある一方で、院試勉強にどうしてもある程度時間が取られるというデメリットがあります。

私の所属していた電子情報工学科は多くの学生が東大の情報理工学系研究科(電子情報学専攻、コンピュータ科学専攻、創造情報学専攻など)に進学するのですが、内部生推薦などはなく、学科同期もだいたい1〜3ヶ月程度試験勉強をしている人が多かったです。私はもともと情報理工も受験するつもりで出願をしましたが、秋からの北京でのインターンの準備、並行して行なっていた2つの研究、アメリカ大学院出願関連の準備と所属大学の院試勉強でキャパオーバーになり、大きく体調を崩し結局未受験となってしまいました(出願料…)。

院試勉強にかなり時間を取られそうな場合は、メリット・デメリットを慎重に検討した方が良いと思います。修士課程への内部推薦制度があるならば積極的に活用していくと良いと思います。

出身大学名はどの程度考慮されるのか

専門や出願年よって大きく状況は変わると思いますが、現在特に競争が過熱しているAIなどの分野では出身大学(特に学部を卒業した大学)をある程度スクリーニング時に見ているような気がします。もちろんこれはパブリケーションなどの実績で十分補うことが可能ですが、学部から出願するか、修士以降から出願するかなどの違いとも併せて、アメリカの博士課程出願は出願者のバックグラウンドに応じて同じような研究業績でも基準・評価が変動する点は十分注意が必要です。

あるPh.D.学生が書いた記事では、彼が自分の合格したあるトップ校の学生に調査を行ったところ、学部がアメリカ国内のトップ校の場合はパブリケーションが1つ以上であれば合格可能性がある程度高いのに対し、学部がアメリカのトップ未満もしくは各国のトップ校の場合は2本以上、そしてそれ以外の場合は3本以上となっています。またパブリケーションが複数本なくとも、アメリカのトップ校の修士課程(CMU, Stanfordなど)を経てから出願すれば合格可能性があるともしています。

参考になるブログなど

私は出願時にはこれまでにPhD出願をされた方のブログ(体験記)や審査側の先生や学生が公開している情報がとても参考になったので、こちらに紹介させていただきます。

受験者の体験記

アドミッション関係者の公開している資料

質問など

学期中はあまりすぐ返信などできないかもしれませんが、質問などある方はTwitterかメールでコンタクトいただけると幸いです。

Twitter: @AkariAsai

Email: akari@cs.washington.edu

*1:もちろん修士課程に進学してから博士課程に進学するケースもあります

*2:ちなみに一部の大学ではアメリカ外の大学の「トップ校ランキング」を独自に作成し、それに基づいて評価を行なっているようです。ちなみに少し前まである大学の内部リストでは日本の大学は1つも掲載されていなかったようです...

*3:この時点ではGRETOEFLなどのスコアはもう見なくなる大学と、一応GREのAWやQuant、TOEFL Writingなど研究に関連するスコアについても再度確認する大学があるようです

*4:おそらくこの時点でも候補者プールには数百程度残っているので、特定の教授と働きたい場合はここできちんと名前を言及しないと見落とされる可能性が高いです

*5:主に合否ラインに載っている場合に行われることが多いです。面接まで行けば合格可能性は半々くらいではないでしょうか。信憑性は定かではないですが、今年のスタンフォードは上位10~20パーセントの学生のうち、合格を出すことが確実なトップ数パーセント層を除いて短い面接を行ったようです。

*6:この際に推薦した教授が将来的にアドバイザーになることが多いようです

*7:一応ホームページには必須ではない旨が書いてあるのですが、「同程度の候補者がいた場合はビデオエッセイを提出した方を優先して合格させる」と公式も書いており、また今年は更に2月ごろに急遽ビデオエッセイの提出を要求する連絡を受け取った候補者もいたらしく、よほどの理由がない限りこのプログラムに関してはビデオエッセイを提出すべきだと思います。

*8:おそらくStanfordなどのトップ校では本当に足切れすれすれのスコアです…。時間があるならばきちんと準備をして320後半を取るべきだとは思います。ちなみにある大学の関係者には「今年の自然言語処理分野の合格者は(君以外)ほぼGREで満点だったよw」と言われました…

*9:UWの場合、26点に届かなくても23点以上であれば面接によりSpeaking能力をアピールできればTA業務に従事できます。裏を返すとSpeakingのスコアが23点より大幅に低いとやはり代替措置も難しくなるため、足切りをされてしまう可能性はかなり高いと思います... https://grad.uw.edu/policies-procedures/graduate-school-memoranda/memo-15-conditions-of-appointment-for-tas-who-are-not-native-speakers-of-english/

*10:ただカナダの大学の一部では学部からの出願場合必ずまず修士プログラムに出願する必要があり、修士プログラムについては明確に(事実上の)ミニマムスコアが設定されていることがあります。マギル大では「Applications with less than 3.5 in the analytical section or less than 160 quantitative are very unlikely to be accepted. Weak verbal reasoning scores may also contribute to refusal of an application.」としています。

*11:ただ大学によっては100超えていれば全く気にしないという声もあるので、あくまで余裕があればだと思います。

*12:https://www.cs.cmu.edu/~harchol/gradschooltalk.pdf

*13:私はTOEFLのSpeakingが22と振るわなかったのですが、アメリカ人の推薦者が「彼女の英語のプレゼンテーションスキル、コミュニーケーションスキルは極めて高い」など書いてくれたようです

*14:http://gakuiryugaku.net/web/wp-content/uploads/2017/03/panel_noda.pdf

*15:実際トップ校のPhDプログラムに学部から直接合格したPhD学生のCVなどを見ると、学部成績がかなり上位であるsumma cum laudeや100名を超える同級生の中で首席で卒業した、などの記述がある学人がかなり多いです。

*16:いくつかの大学では学部全体でのGPAと専門科目でのGPAの両方を記入するよう求められました。UWでは直近の60単位でのGPAをわざわざ記入させる欄がありました。

*17:https://www.cs.ucla.edu/graduate-admission-requirements/

*18:http://timdettmers.com/2018/11/26/phd-applications/

*19:音声・自然言語処理が「Spoken And Written Language Information Processing」だった時はびっくりしました...

*20:ウェブサイトでCVと書いてあるセクションに行くと大抵彼らの最新のCVが確認できます

*21:先生のホームページにProspective StudentやJoin our group?等書いてあるページがあれば事前コンタクトに関することや学生をとるかどうか、求める学生像など明記している場合が多いです

*22:私は出願先の大学院生に確認してもらった際、ダイバーシティ推進のための活動やハッカソンで作ってきたプロダクトに関する段落について、「他の候補者と差別化できる点だし、多様性を重要視する大学の審査では好印象を与えると思うので、絶対にこの部分は削らないほうがいい」と言われました。

*23:http://www.pgbovine.net/PhD-applications/Philip_Guo-Stanford-PhD-app-statement.pdf

*24:話し言葉や発音と比べると、フォーマルなライティングにおける差は小さいと思いますが、analyze/analyseやcentre/centerなど意外とSoPで使いそうな単語でもスペリングが違ったりします

*25:CSによっても面接をどの程度行うかは大学によります。Do PhD admissions for computer science usually have interviews? - Quora

*26:知り合いの教授は毎日20通近いメールが「Prospective Student」から送られてくると言っていました…

*27:実際ある先生は「メールが来たらメールと添付されている資料などを見て、実際にあったりメールに返信するか決めている」とおっしゃっていました

*28:足切りを超えていない場合、そもそも教授まで応募書類が届かないことが多いです…

*29:私は実際に面接である先生から、「奨学金持っているのはとても良いと思うんだけど、これは博士号取得後に日本に帰る義務があるの?」と聞かれました

*30:今年のCornell CS PhDが出願者が1452、UWが去年に引き続き2000超だったようです。

*31:NLPと音声に特化したCMU CSのLTIプログラム単体で700程度、機械学習の理論的な分野をメインに据えるCMU CS MLDで1000程度の出願があったようです

*32:もちろんこれは私の専門分野がCSの中でも言語学や統計、数学に近い自然言語処理機械学習のためバイアスがかかっていることも否定できませんが…